『フラッシュ・ゴードンは俺達の導師だ。彼に善悪を教わった。“演技”という定義を大きく超えてね』
「フラッシュ・ゴードン」がここまでリスペクトされる映画だったとは。公開当時は誰も(少なくとも日本では)思わなかったでしょう。
良かったなぁ、ラウレンティス。
「テッド」(2012年/セス・マクファーレン監督)
1985年のボストン郊外。
“クリスマス、地元の子供たちはユダヤ人をボコボコに…”という冒頭ナレーションで、この作品が特殊な立ち位置をとっている事が分かります。
このボコる側にもボコられる側にも混ぜてもらえない孤独な少年ジョン・ベネット。
彼はクリスマス・プレゼントのテディ・ベア(トーキング機能付)に「本当にお話ができればいいのに」と祈ります。
この時のナレーション「少年の願いほど強いものはこの世にない。アパッチ戦闘ヘリを除けば。あとバルカン砲と対戦車ミサイルも。これらは最強兵器の結晶、恐怖の殺戮マシーンだ」で本作が“こちら側”の作品である事を確信。
翌朝、少年の願いが叶ってテディ・ベア“テッド”は動いて喋る本当の友達に。
と、ここまでは実にディズニー・チック(除くナレーション)。問題はこの後。時間軸は一気に進行して27年後。
ジョン(マーク・ウォールバーグ)とテッドは、水パイプでマリファナを回しのみしながら、「フラッシュ・ゴードン」のビデオに見入る駄目駄目な大人になっておりました。
以降、シモネタ・オンパレード。下品に下品を上塗りしながら、クライマックスはプチサスペンスとプチアクションを絡めてきっちりファンタジーに着地する反則構成。
中盤、まさかのフラッシュ本人(サム・ジョーンズ)ご登場。歳喰ってもやっぱりフラッシュ。瞳孔おっぴろげたジョン、消える騒音、金髪をなびかせる風と共に“あの”コスチュームに脳内変換。BGMは勿論“♪フラッシュ! アア~!”。
素晴らし過ぎます。
さて、本作の字幕監修は町山智弘さんが担当しているのですが、これが実に微妙。
修飾語を加えたり別の言い方にしたりして分かりやすくしてくれているのは助かります。
「ビショップみたいだ」→「エイリアン2のビショップみたいだ」
「ゲイ同士の殴り合いクラブ」→「ファイト・クラブ」
これらは言語の意味を変えずにより説明的にしている親切字幕です。ですが、
「テディ・ラクスピン(80年代のおもちゃ)が欲しかった」→「くまモンの方がよかった」
「パトカーアダム30みたいだろ」→「ガチャピンより凄いだろ」
「誰かがジョーン・クロフォードにならなきゃ」→「誰かが星一徹にならないと」
辺りになると、ちょっと許容範囲を超えてきます。
確かにジョーン・クロフォードと言われてもピンとはきません(ジョーン・クロフォードは「愛と憎しみの伝説」という映画で養子を虐待する役を演じており、幼児虐待の代名詞になっている…らしい)。
だからと言って、そこに星一徹を持ってこられてもシラけるだけです(絶対そんな事言っていないと思った段階で字幕全てに対する信用がなくなる)。
一番酷いと感じたのが、
「俺をアルフと間違えてた。目がテンだったよ」という字幕。オリジナルは「俺をアルフと間違えてたよ。ユダヤ人だと思い込んでやがった」
最初の町山案は「俺をアルフと間違えてた。所ジョージじゃないっての」(←配給会社が「それだけはやめてくれ」と懇願して没)。
ちょっと解説が必要だと思います。
アルフってのはUFOごと落下してきた宇宙人が居候になるという80年代後半のテレビドラマ。主人公である毛むくじゃらの宇宙人の名前がアルフです。
このドラマをNHK(BS2)が放送した時にアルフの声をアテたのが所ジョージ。
で、「所ジョージじゃないっての」という字幕にしようとしましたが没になったので、所ジョージからの連想ゲームで「目がテン」…。
ひねり効かせすぎです(笑)。最早原型を留めていません。一体どこが“日本人にも分かりやすく”なんだ。
“そのまま訳しても君ら文化レベルの低い愚民には理解できないだろうから、俺が分かりやすくしてやるよ”、これじゃ誤訳の女王と同じ勘違いの上から目線じゃありませんか。
分からないものは分からないままでいいと思います。気になる人は調べればいいんですよ。そうする事でアメリカのカルチャーの一端が分かるじゃないですか。
そもそもそれを教えるのが町山さん本来の仕事でしょう。
ああ、もうひとつ“熊ん子”ってすげー字幕もあったけど説明すると長くなるから割愛。
町山さん脚本の実写版「進撃の巨人」、不安だなあ(と言うか不安しかない)。
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※町山字幕の本人解説はこちら→http://d.hatena.ne.jp/TomoMachi/20130120
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