『ああ、もう…これいつ終わるんすか?』
『に、にじゅうはちねん?!』
誰かと繋がりたくて広大な海を渡ろうとする人々に捧げる辞書“大渡海”の編纂。その工程自体の面白さもさることながら、求める仕事に巡り合えた男(たち)の悦びがひしひしと。
これは世界一幸せな男(たち)のお話。
「舟を編む」(2012年/石井裕也監督)
1995年。玄武書房本館の隣にひっそりと佇む古びた別館に逼塞している辞書編集部。
ベテラン編集員・荒木(小林薫)の定年退職を前に営業部から異動してきた馬締(マジメ)光也(松田龍平)。
真面目で不器用でコミュ障気味の馬締はここで生涯を捧げる仕事に出会います。
言葉を捜し、集め、選び(捨て)、整え、語釈を考え、24万に達する言葉を一冊の辞書にまとめていく気の遠くなるような地道な作業。
『自分の指が言葉に触れる…世界に触れる悦びってのかな』
ベテラン荒木、お調子者の先輩・西岡(オダギリジョー)、外部委託の監修者・松本(加藤剛)、そして嘱託の兵・佐々木(伊佐山ひろ子)。馬締を含めた5名が戦力の全て。
ちゃらんぽらんでいながら、大事には体を張って男気を見せるオダギリがいい感じ。
馬締の住む下宿が素晴らしい。
築何十年だよ!?な木造住宅。本に囲まれ(空き部屋も本が占拠し)、窓を開ければ野良猫のトラさんが顔を出し…。ゼンマイ式掛け時計のネジを巻くのも日課のうち。
アナログの海に溺れそうな暮らし。こんな生活に憧れない奴がいるでしょうか(私はこの下宿の情景になぜか涙してしまいました)。
そして満月の夜に物干し台で出会った女・香具夜(宮崎あおい)。板前の卵。
一目惚れ。告白は恋文。和紙、巻物、筆文字(読めねえよ!)。
『手紙じゃなくて言葉で聞きたい』
2008年。辞書編集部に人員増強。大渡海は3校から4校へ。
『13年も何をしていたんですか?』
『ずっと作業をしていました』
各賞総なめの折り紙つき。ひねくれ者の私としては斜に構えたいところですが、本作は本当に素敵な作品だと思います。
仕事でも趣味でも、活字でも台詞でも、言葉と共に生きている人は是非。