1980松田優作版と比較されて「こんなものハードボイルドではない」的に断罪されてしまう事が多いようですが、比べてどうする?
確かにハードボイルドとしての空気感は希薄かもしれません。しかし、時代の雲気のようなものは確実に掬っていたと思います。
大藪春彦の原作が宝石7月号に連載されたのが1958年ですから発表翌年の映画化です。
原作者24歳、監督28歳、音楽の黛敏郎ですら30歳。
後に「黒の超特急」「盲獣」「動脈列島」を手掛ける脚本の白坂依志夫も26歳。
若い! 彼らが当時の社会情勢に鋭敏になるのは当然の理。
貧乏人には選択肢すら与えられない社会。その象徴が働いても働いても生活が上向かない若手刑事・真杉(小泉博)。
恋人にプロポーズもできず、正義を全うすることもできない。彼と対を成すのが、能動的ニヒリズム、個人主義的アナーキズムに貫かれたアプレゲールの象徴・伊達邦彦(仲代達矢)。
ちょっと驚いたのは銃描写。
刑事射殺に使われたS&W22口径がきちんとスライド。残念ながら発砲は効果音のみでしたが、可動モデルは当時としては画期的だったのでは。
賭場団の用心棒・三田(佐藤允)から奪ったモーゼルHScはマガジンが抜けてダミーカートリッジを指で弾き出せる本物志向。
現在のモデルガンから見れば当ったり前の話ですが、外見だけ中途半端にトレスしたステージガン全盛期としてはやはり斬新な試みであったと思います。
後半、佐藤允が使用していたスターム・ルガー22口径↓もいい感じ(これはマズルフラッシュの出るステージガン)。
この辺りは原作者のこだわりなんだと思います。
優作は優作、仲代は仲代。別物と割り切って楽しむのが吉でしょう。
あ、ひとつだけ苦言。ボクシングジムのシーン。パンチングボールの使い方くらい誰か仲代に教えてやれよ。あれじゃ猫が初めて見る玩具に恐る恐る手を出しているみたいで情けない(ある意味シュールだ)ぞ。