『この国は何も変わっていない。いまだに15の秘密警察機関があって誰でも逮捕される』
この国とはシリア・アラブ共和国。ある意味、本作の主役です。
「ノンストップ 救出」(2012年/ルバ・ナッダ監督)
外国で消息を絶った娘を奪還しに行くお父ちゃん、という図式はまんま「96時間」であり「沈黙の聖戦」ですが、こっちのお父ちゃん・アディブ(アレクサンダー・シディグ)はリーアム・ニーソンでもスティーブン・セガールでもありません。
DVDのジャケに踊っている“この父親、最強”のコピーは(映画的期待値という意味では)掛け値無しに大嘘です。
最後の方に申し訳程度のアクションがありますが、さしたる活躍も無く至って地味な仕上がり。では全く面白くないのかとそうでもありません。
アディブはカナダでそこそこの成功を収めたビジネスマン。彼にはシリアでスパイ容疑をかけられ国外逃亡したという家族にも内緒の過去がありました。
ある日、カメラマンの娘・ムラが行方不明に。ギリシャで仕事をしていたはずの彼女が最後に目撃されたのはダマスカス。
そこは二度と戻らぬと誓った故郷。
かつて将来を誓い合った(しかし生き別れになるしかなかった)恋人ファティマ(マリサ・トメイ←「レスラー」のポール・ダンサー。男運無し)と僅かな手掛かりを頼りに娘の消息を辿るアディブ。
銃は必要ありません。なぜなら彼にはここでしか通用しない必殺の脅し文句があるから。
『貴様もイスラエルのスパイだと言ってやる。女房も子供も巻き込んでやる』
この国では告発が全てで真実に何の価値もないことは先刻承知。即完オチです(笑えね~)。
監督さん(脚本も兼務)、スーパーヒーローな親父にはあまり興味が無かったんでしょう。「96時間」の失敗模倣と言うよりはアンチテーゼだったのかもしれません。