事故った時に喋り続けたうわ言。意味不明な単語の羅列の中には意識の彼方に葬った過去の記憶が埋め込まれていました。
「メメント」+「マルホランド・ドライブ」(もしくは「ロスト・ハイウェイ」)の線を狙って見事に玉砕したフランス産なんちゃってミステリー。
「ブラック・ボックス~記憶の罠~」
(2005年/リシャール・ベリ監督)
アルチュール・セリグマン(ジョゼ・ガルシア)は自動車運転中に景気良く横転・大破。担ぎ込まれた病院で謎のうわ言を延々と。
『スパゲティを刈る』『テキサスはなかった』『RP50』『シネヴァン・ガネムに殺される』…。
冒頭、執拗に繰り返されるこのフランス語のモノローグが何故か物凄くイラっときます(どんだけフランス語と相性悪いんだよ、俺)。
で、心優しい看護婦さんイザベル(マリオン・コティヤール)が、その単語を克明にメモ。昏睡状態から醒めたアルチュールはこのメモに隠された過去の記憶を探っていく…のですが。
前半はまるっとミス・ディレクションで後半が本題。では前半は観なくてもいいかと言うとそうもいかないので飛ばすに飛ばせず。
隠されていた記憶は兄の死に関するもの。幼少期に起きた事故の真相に迫るというミステリーの建てつけをとってはいますが、謎解きはおまけ…
と言うかミステリーだと思って観ていると腰砕けにも程があるオチに怒りと落胆のサンドイッチラリアットを喰らう羽目になるので全く別のジャンルとして観るのが吉です。
因みに販売元の角川が設定したジャンルは“ソリッド・アイデンティティー・スリラー”。販促部隊の苦労が偲ばれます。
展開がひたすら思わせぶり。シネヴァン・ガネムがアナグラムになっているのも意味不明。深層心理ってのはそんな面倒かつ複雑なことまでするんかい。
犯人(?)の登場も『お前ここまでお話に全く絡んでねぇじゃねえか!』な唐突さ(言動も支離滅裂)。
更にこの犯人を前にしたアルチュールの反応も『おいおい、何言っちゃってんだよお前』な不甲斐なさ。
謎が解き明かされる爽快感も、事件にケリをつけるカタルシスもないまま勝手に終わってしまいました。
リンチの壁は高く険しい。