観ると(聴くと)エライこっちゃになる呪われた品、世界にひとつ(もしくは数個)しかない希少品、存在そのものが確認されていない都市伝説的なもの。
上映時に観客が暴力沙汰を起こしたために政府がフィルムを没収、監督は行方不明、スタッフは全員死亡。唯一生存しているカメラマンは失明という都市伝説の映画「世界の終り」。
17世紀に書かれ、現在は世界に3冊しかないと言われる悪魔の祈祷書「影の王国への九つの門」(ナインスゲート)。
録音中に発した作曲者の声が記録されてしまったレコード「サラサーテの盤」。
こういうものに魅せられた人間は大抵悲惨な末路を辿ることになります。
そしてこういうものを映像化する時に最も高いハードルとなるのが「音」。
小説におけるビジュアルにはそれなりに具体的なヒント(描写)があります。しかし音、特に音楽に関しては「魂を震わせるような」とか「過去のトラウマを呼び覚ますような」といった超抽象的な手がかりしか提示されていないのがほとんどです。
読者100人100様のイメージをどう具現化するのか。
一番簡単な手法は無音にして、聴いた人のリアクションだけを見せるというものですが、それでは面白くありません。
敢えて実音に挑戦する。見事な心意気だと思います。
「伊藤潤二 コレクション/第7話・No022 中古レコード」(2018年2月8日WOWOWプライム放送/村上勉演出)
『何も書いていないジャケット。唐突な曲の始まり。奇妙な抑揚、淡々とした歌声。ライヴ音源であるらしく周囲の雑音が混じり、時々入る誰かのささやき。そしてこの終わり方といい…まちがいない…これは…知る人ぞ知る“ポーラ・ベルのスキャット”だ!
』(台詞は原作のもの)
歌手ポーラ・ベルが“死後”に録音したという幻のレコード「ポーラ・ベルのスキャット」。
原作でも「ララララー」とか「ルルルルルル」としか表記されていない死者の歌。よくぞ再現(表現)してくれました。残念だったのは
① 「死後録音」の詳細(録音当日、事故に遭いスタジオで力尽きたが死体にマイクを近づけたら執念だけで歌い出した)が端折られてしまったこと。
② 中古レコード屋の親父が途中でいなくなってしまったこと
③ このレコードに魅入られて命を落とした人間が死語ポーラ・ベルのように歌い出すという描写がなかった(正確にはそれとなく描かれているのですが無茶苦茶分かりにくい)ことでしょうか。
後半はつげ義春も裸足で逃げ出す不条理ドラマ「No038道のない街」。
街を内蔵した巨大な家屋、住宅内部が道として使用されるプライバシー無き世界。住人は全て仮面着用。
意識も物質も浸食し拡大する妖しの世界。
普通の人が思いつく話ではないです。発想の元ネタって何なんでしょうねえ…。