『この国らしい殺しだ。雑で証拠を隠しもしない』
アイスランド、レイキャヴィク(そう、「レイキャビック・ホエール・ウォッチング・マサカー」のレイキャヴィクです)。
北部のアパートで発見された老人の死体。死後二日。しかし、湿地帯の上に立てたその建物には死後2ヶ月は経っていそうな腐臭が充満していました。
「湿地」(2006年/バルタザール・コルマウクル監督)
現場の机の引き出し裏に貼り付けてあった1枚の写真。それは墓地。埋められているのは30年前に4歳で死んだ少女ウイドル。
死因は脳腫瘍。そしてウイドルの遺体からは脳が抜き取られていました。
いやあ、暗い。話ではなく(いや、話もですが)、景観が。
北欧という(良い意味での)幻想性と乖離した、あの世とこの世の乗り継ぎ駅のような寂寞、荒涼(陽射しって何?)。
海に面しているのにとことん閉塞感に満ちた閉じた世界。
テーマになっているのは血縁、遺伝。これらはアイスランドという土地にも関わるお話なので、薄く浅く表層をさらっておきましょう。
アイスランド。面積103,000k㎡(北海道の約1.2倍)。人口34万人足らず(東京都中野区とほぼ一緒)。
島に入植する人間も離れていく人間もほとんどおらず、家系を紐解けばどこかで近親婚が発生している確率が高い。
作中でもウイドルの父親に関する記録が残っていない事について役所の人間が『近親相姦かレイプで生まれたか、父親が外国人か』とサラリと言っておりました。
もうひとつ。私が本作のキモだと決め付けているアイテムが「羊」。
寒冷地ゆえに羊毛を目的とする羊の飼育が盛んになりましたが、羊は植物であれば若木を含めて食べてしまうので、国土の2/3を覆っていた植生が1/2に減少。表土の露出した荒涼たる風景となってしまった…そうです(ありがとうWikipedia)。
あの景観の原因は羊だったのか。
主人公の刑事がドライブスルーで買っている「いつものやつ」は羊の頭。
まずはポケットナイフで目玉を抉り出して堪能。あとは手づかみ。ナイフもフォークもスプーンも使わず素手。フィンガーボールという“マナー”が生まれる訳です。
グラビアエロ雑誌には羊とヤッている写真が(見て興奮するのか?)。
飼ってよし、売ってよし、食べてよし、姦ってよしな万能アイテム。それが羊。
てな事をインプットして観ると、お話に奥行きが生まれる…かもしれません。
因みに本作が作られた2006年のアイスランドはGDP世界第5位の経済力を誇っていましたが、2008年の世界金融危機で通貨クローナはゴミ並に下落(1ドル=60クローナ→125クローナ。マクドナルドが異例の撤退)。
経済ってのは面白いもので、この自国通貨暴落は輸出を活性化させ、観光客を呼び込み、2013年には経常収支の黒字回復を果たしているそうです。