人生の(あるいは日常の)点景を捉えて並べて。
何やってんだい、君たち(笑)。
「さよなら、人類」(2014年/ロイ・アンダーソン監督)
第27回東京国際映画祭上映時のタイトルは「実存を省みる枝の上の鳩」(ルネッサンス後期の風景画家ピーテル・ブリューゲルの「雪中の狩人」に描かれた鳥にインスパイアされたんだそうです)
「~鳩」だと同じ「雪中の狩人」に影響を受けたアルジェントの「歓びの毒牙(キバ)」の英題「THE BIRD WITH THE CRYSTAL PLUMAGE 」とイメージが被っちゃいますし、「さよなら~」だと「グッバイ20世紀」がよぎってしまいます(大概な連想ゲームだ)。
舞台はスウェーデン。サムとヨナタンは売れないセールスマン。売り物は「面白グッズ」。
もうこの時点で駄目駄目ですが、面白グッズが壊滅的に駄目。ドラキュラのキバに笑い袋に歯抜けおやじのラバーマスクですよ。売れるわけがありません。
で、彼らが主人公となって何かするのかと言うと、何もしません。他のエピソードに積極的に絡むのかと言うと、絡みません(たまに背景として存在する程度)。
全てのエピがワンシーン・ワンカット。白かベージュの壁に囲まれた(必ず窓か次の間に続くドアがある計算しつくされた構図の)空間を固定カメラががっしりと捉えます。
小洒落た短編集をランダムに眺める感じ。
どれも味わい深いですが、お気に入りは「1シリングのキス」(←特にタイトルがあるわけではありません。勝手につけました)。
ロッタの酒場は1杯1シリング。しかし、海兵隊の青年のポケットに1シリングも。『お金がないのにロッタの店で酒を飲むにはどうしたらいい?』 ロッタの答えは、
『お金の代わりにキスで払って』
全ての会話が「リパブリック讃歌(原題: The Battle Hymn of the Republic)」の替え歌になっているミュージカル仕様(1943年という思い出話なので、サムとヨナタンは背景にも登場しません)。
点景を計算された無秩序さで並べて終わるのかと思ったら、最後にとんでもない爆弾が仕込まれていました。
巨大な銅製のシリンダーに次々押し込められる奴隷たち。全員入ったところでロック、下部に掘られた溝に松明を投げ込むと炎が…(え、何これ、マジ?)。
中の奴隷が熱さから逃れるためにハツカネズミのように走り出し、シリンダーが回転。側面に刻印されていた【BOLIDEN】の文字が…。
Boliden AB(ボリデン)はスウェーデンに本社を置く資源大手。銅生産では欧州2位、亜鉛は欧州3位の生産企業。
何でも1980年代にボリデンがチリに販売した精錬残渣によって中毒症状を起こした人たちが何百人もいた、という事に対するメッセージを含んでいるんだとか。
絵柄もヤバイですが、意味合いもヤバイじゃないですか。
ヨナタンが見た悪夢というオチはありますが、心拍数上がりました。
第71回ヴェネツィア国際映画祭でプレミア上映され、最高賞である金獅子賞を獲得(第88回アカデミー賞の外国語映画賞にはスウェーデン代表作としてエントリーされましたが、ノミネートには至らず)。
★ご参考