デストピア経典~曼荼羅畑でつかまえて(三代目)

B級カルトな特殊映画、ホラーにアニメに格闘技、酒にメタルにフィギュアに銃。日頃世間ではあまり顧みられる事のないあれやこれやを過剰なる偏愛を以てご紹介いたします。

冥府魔道の子守唄。 エル・トポ

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9月です。まだ暑いですが秋です。ゲイジュツを語りましょう。

「エル・トポ」(1969年/アレハンドロ・ホドロフスキー監督)

“もし、あなたが偉大なら「エル・トポ」も偉大だ。もし、あなたに限界があれば「エル・トポ」にも限界がある”(アレハンドロ・ホドロフスキー

つまり、この映画はお前を映す鏡だ、と。さあ、語ってみろ、と。

いきなり匕首突きつけられてビビったのか、この映画の神秘性・宗教性・背徳性について正面から切り込んだ論評になかなか出会えません。

誰かが口にしたフェリーニが西部劇を、クロサワが宗教劇を撮ったらこうなるだろう」という分かった様な分からない様な例えを有難がって連呼しているだけです。

この例えに関しては「違うだろ」が正直な感想。

無理やり例えるなら、テイストだけで言えば、鈴木清順とか寺山修司と紐付けしたくなりますが、作品として一番近いのは三池崇史の「IZO」ではないでしょうか。

女の甘言に乗って息子を捨て、砂漠に住む4人のマスター(最強のガンマンとして紹介されますが、実態は道を極め悟りを開いた修験者)を倒す旅を続けるエル・トポ。

卑劣な手段で3人を殺しますが、4人目はエル・トポの行為の無意味さを説いて自殺。

女に裏切られ銃弾を浴びたエル・トポはフリークスの集団に助けられ、20年の眠りの後、救世主として覚醒。

托鉢し僧侶となったエル・トポは洞窟に封印されたフリークスを開放するためにトンネルを掘る決意をするのですが・・。

町に雪崩れ込んだフリークスたちを金持ち健常者がライフルの一斉射撃で皆殺しにするクライマックスが罰当たりで圧巻。

南米チリの荒野で生まれ、両親(ロシア系ユダヤ人)に捨てられ、フランスを放浪し、メキシコ・シティーに根付いたホドロフスキー

時代はカウンター・カルチャー全盛。サイケデリック・ムーブメント真っ只中のヒッピーにとって「エル・トポ」はドラッグだったのでしょう。

大枚はたいてこの映画の権利を買い取ったジョン・レノンなんか、いいように“乗せられた”ようにしか見えません。

キリスト教や禅、カバラをキーワード的に投げ込んで一味違う(ように見える)エンターテイメントをでっちあげた辺りはエヴァの先輩と言えるかも。

語るは困難(ほとんど裸の王様)ですが、間違いなく「なんか凄え」。困った映画です。

※参考:「サンタ・サングレ/聖なる血」→2010年3月1日