70年代が纏っている、怪しさ、いかがわしさ、猥雑さ、いい加減さ、全ての温気を兼ね備えたパニック・ホラーの傑作です。
「吸血の群れ」(1972年/ジョージ・マッコーワン監督)
お話は簡単。とある強欲ジジイの誕生会に集まった親戚一同が爬虫類軍団の襲撃を受け、一部を除いて全滅する・・。
一応、強欲ジジイ(レイ・ミランド)が保有する製紙工場が沼地に廃液垂れ流し、というエコ設定はありますが、免罪符にもなっていません。
爬虫類軍団のリーダーはカエル(原題:FROGS)。
ワニや毒蛇など明らかにカエルより格上な生き物がいるにも関わらず全体の指揮系統はカエルが握っています。
この映画の素晴らしい所はたくさんありますが、まずは何といってもポスター・デザイン。
巨大なカエルが人間をひと呑みにして口から手がはみ出しているという見事なものですが、真に素晴らしいのは、劇中にそんなシーンは無い、という事です。
カエルは大きくてもせいぜいウシガエルクラス。こいつがゲコゲコと指示を飛ばして他の爬虫類を操っている・・ように見える編集がなされています。
もうひとつの特徴は、爬虫類が人間を襲う直接的描写がほとんどない、という事。
水底の泥に足をとられる女。その横をゆっくりと泳いでいる亀。絶叫する女。
シーンが変わると女は死んでプカプカと浮いている・・何があったんだ? 亀に喰われたのか?
つまり、コロコロと転がってくるトマトの横で「きゃー!」と勝手に人が死んでいく“あの”映画と同じ作りなのです(製作はこっちが先ですが)。
根性見せたのは、小振りなワニと抱き合って水溜りをローリングしたおっさんくらい。
毒蛇・毒蜘蛛は分かりますが、あとはほとんど事故(トカゲが温室の毒瓶倒すとか、ヒルが張り付いてショック死するとか、持っていた猟銃が暴発するとか)。
先ほど、カエルが人を喰うシーンなんか無いと書きましたが、実はあります。
映画が終わって画面が暗転すると、画面脇から人間の手をくわえたアニメーションのカエル(顔はピョン吉)が、ぴょこん、ぺたん、と現れて愛嬌振りまいて去っていく・・(呆然)。
うわあ、これがあのポスターの元ネタかよ。
この“騙された感”こそ、70年代の醍醐味です。
★ご参考