以前、百貨店販売員の接客応対を仕込みの客を使って記録するというスパイ活動(勿論仕事。一般的にはマーケティングと言う)をしていた事があります。
その時使っていたのが超指向性集音マイク、所謂“ガンマイク”です。
今のように通販で何でも買えるという時代ではなかったので、専門店で直買いでした。
ラジオライフの広告で見つけた店はとある住宅街の外れのプレハブの2階。
入ろうとしたら中から鍵が。中から販売員が「どちらさまですか?」
おいおい、客だよ、客。「先ほど電話した伊藤ですが」
安堵のため息と共にドアが…って、そんなヤバイ店なのか、ここ?
人懐っこいが眼だけは笑っていないおっさんが出したガンマイクは、プレハブの2階から見渡せる道路を歩いている親子の会話を綺麗に拾ってくれました。
なんて事を感慨深く思い出しつつ鑑賞。
盗聴の世界ではちょいと知られた男ハリー(ジーン・ハックマン)が拾った何気ない恋人の会話。しかし、その中には・・。
公園を俯瞰で捉えたカメラがゆっくりズームしていくオープニングが秀逸。誰に(どこに)フォーカスするのか、先を読んであちこちに眼を走らせている時点で、コッポラに踊らされています。
遠方2点(パラボラ&ガンマイク)、追跡1点の3点録音。このテープをシンクロさせて会話を再構築していく過程がスリリング。音が画を牽引しています。
似たような事をデ・パルマも「ミッドナイト・クロス」でやっていますが、やはりコッポラに軍配です。
ハリーの相棒はジョン・カザール。何と役名がスタン。勿論こちらの方が先なので、「ディア・ハンター」は本作オマージュという事になります。
下積み時代のハリソン・フォードは、今より遥かに存在感が。
死体を出さずに殺害現場をサスペンスフルに演出するコッポラのテクニックに痺れます。
“自分も盗聴されているのでは”という疑心暗鬼からハリーが壊れていくクライマックスは鳥肌モノ。
フランシス・フォード・コッポラ・・才気溢れる若者だったんですねえ。