『原発ジプシーや。あの原発のお人夫さんたち。毎年定検受けんと動かへんのよ、あの原発は』
『定検?』
『定期検査。そのために臨時雇いの人夫さんが大勢集まってくるんよ』
『発電所は医者は入りませんで。仲間が傷口をタワシでこすってくれました』
『タワシで?』
『あちこち転げ回って、目に見えん放射能が体中に巻きついておりますけ、痛かばってん堪えとるとです。
暗か所でマスク被っとりますけん、互いの顔もよう分かりましぇん。
心細くてトイレに行きたくなっても中にはトイレもありまっしぇん。
一緒に落ちた仲間は名前も知りましぇんが、ゴム手袋に小便させてもらいながら息ば引き取りました。
死体は私たちには手も触れさせず、発電所の職員が来て持っていきました。
日本中、どこの原発行っても同じ噂のあっとです。
発電所の中でジプシーが死んだ日は、夕方になるとどこからかヘリコプターの飛んできて、するするっとロープの降りてきて、放射能廃棄物用のドラム缶につめた死体がどことなく吊り上げられて持っていってしまうべな。
福島でも玄海でも敦賀でも、どこに行ってもそっくり同じ噂のあっとです』
『腐っとんねんココ。ウラミニウムで。
目に見えん放射能が怖ぉてジプシーが出来るかい!
マスクも被らんと炉心部まで行ってよ、君ら現代の特攻隊じゃ・・おだてられて…。
ええカッコした罰やで。
せやけど吸い込んだ放射能は消えません。
沁み込んだウラミニウムも消えません
こうなったら終いやでホンマに・・』
『アイちゃんですよー! ゴハン食べたー?!』
「生きてるうちが花なのよ 死んだらそれまでよ党宣言」(1985年/森崎東監督)