『全てはなくなるって事さ。君もお前もあんたも俺もこのタバコも何もかも。真っ暗な空へ。管理者などいない。そこにあるのは“無(Ungatz ウンガッツ)”だけだ』
『無(Ungatz)か…』
『無(Nothing)だ』
『空だよ』
『ならお前は』『どうする?』
『……You Smile』
人生は色即是空、空即是色。
ハリー・ディーン・スタントン。91歳。旅立ち前に最期の一服。
「ラッキー」
(2017年/ジョン・キャロル・リンチ監督)
砂漠とサボテンに囲まれた一軒家に暮らすラッキー(ハリー)。
いつもの時間に起き、体を拭き、タバコをふかし、コーヒーを飲み、ヨガのポーズを決めるとテンガロンハットを被っていつものダイナーへ。
夜はバーでブラッディ・マリアを1杯。
事件も冒険もありません。
いつもの店といつもの仲間。そこにふと入り込む「死」の気配。
逃げた陸ガメに全財産を残そうとする友人役でデヴィッド・リンチが。
ああ、これは旅をしない「ストレイト・ストーリー」なんだ。
偶然出会った男とダイナーのカウンターで戦場の苦い思い出を語るシーンも。
この男がトム・スケリット。ノストロモ号以来の邂逅。
「ストレイト・ストーリー」でアルヴィン・ストレイトが飲んでいたのはミルク。
ラッキーの1日も冷蔵庫でコップごと冷やしたミルクで始まります。
毎日のミルクやタバコを買う雑貨屋のレジおばさん(スパニッシュ)の息子の誕生パーティにお呼ばれしたラッキー。
スペイン人らしく「ピニャータ」なんかもやっているパーティ会場でラッキーはスペイン語の歌を披露。マリアッチがこれに合わせ、皆もこれに唱和する。和やかな雰囲気。
パーティの主役である息子の名前はフアン・ウェイン(Juan Wayne)。
『フアンは英語ならジョン。ジョン・ウェインと一緒だ』
ジョン・ウェイン。その晩年を当て書きした「ラスト・シューテスト」が思い出されます。
ただ爺さんの日常を眺めているだけで色々な情景が脳裏の端を行ったり来たり。
『孤独と独りは違うんだ』
(There's a difference between lonely and being alone.)
若い時に観たら「つまんねー」で終っていたかもしれません。
やはり歳はとるものです。
★ご参考
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★本日のTV放送【12:40~テレビ東京/午後のロードショー】