諸悪の根源は国家、その最小単位は家族。だから家族も悪である、なんて事を招かれた結婚式の席上で力強く語る男・・奥崎謙三。
「ゆきゆきて神軍」(1987年/原一男監督)
まずは奥崎謙三という男の華麗な半生[戦後篇]をおさらいしておきましょう。
1946年:復員時に復員者の食料を横領しようとした復員船船長の
腹部をハサミでぷす。
1956年:金銭トラブルから不動産業者を暴行致死。懲役10年。
1969年:天皇パチンコ玉事件。懲役1年6ヶ月。
1976年:天皇ポルノビラ事件。懲役1年2ヶ月。
1981年:田中角栄に対する殺人予備罪で書類送検(不起訴)。
1982年:「ゆきゆきて神軍」撮影開始。
1987年:殺人未遂で懲役12年。
2005年:没。
一部抜粋ですが、素晴らしすぎます。テロリストにしてアナーキスト。
本作品は82年から87年までの奥崎を追ったドキュメンタリー。
奥崎が所属した独立工兵第36連隊(ニューギニア派遣)で終戦後「戦病死」した兵士の死の真相を探るうち、当時の上官3名の殺害を決意(!)、決行時に偶然応対した元中隊長の長男に発砲(!)、殺人未遂で逮捕・・。
奥崎の心に正義があったのかと言うと、多分なかったのだと思います。カメラ向けられた瞬間、テロ・アナーキストになる根っからの役者(もしくは人格障害者)なんです(自分の言動に興奮して激昂するマッチポンプ・タイプ←親近感わきまくり)。
じゃ、原一男が騙されていたのかと言うとそれも多分間違いで、分かった上で互いを利用してやろうという暗黙の共同謀議があったと思われます。
原監督による「ゆきゆきて神軍―製作ノート―」によると、ニューギニアの現地ロケがあったようなのですが、奥崎の後先考えないスタンド・プレーが災いしてフィルム没収されてしまったらしいです。
仕方なく、国内撮影分を繋いで本編を作った訳ですが、やはり国内だけでは絵柄の変化が乏しく、全体としてやや冗長な印象になってしまったのが残念です。
ヤラセと自己陶酔と真実の境界線が確信犯的に曖昧。ドキュメンタリー映画で1本挙げろと言われたらコレですね。