『何が零下20度だよう。体中ツラだと思えばちっとも寒かねえよ』
いきなりの強がり。男は黙って…のイメージからは大分離れたトッポい健さん。これもまた良し。
「網走番外地」(1965年/石井輝男監督)
「関東流れ者」の添え物企画(モノクロ撮影)という冷遇処置を受けたにも関わらず、通算18作に“化けた”メガヒットシリーズの記念すべき1作目。
原作からの引用はタイトルのみという潔いにも程がある石井ワールド。
傷害で3年。刑期満了直前、集団脱走劇に巻き込まれた健さん。“手錠のままの脱獄”の相方は南原宏治。
劇中、野外作業終了後のボディチェックを受ける際、健さんが(自分が点数稼ぎなどではないという証拠に)一発芸を披露し、他の囚人が次々持ちネタ(?)でこれに続く、というシーンがありますが、この“役者祭り”こそ本作の持ち味。
個性満開の中でも際立っているのが、牢名主的立場の安部徹と健さんを脱獄に巻き込んだ南原宏治。
特に南原の突き抜けた憎憎しさは清々しさと紙一重。
しかし、彼らがまとめてかかっても太刀打ちできないのが御大、嵐寛寿郎。
物静かな老人。残りの刑期を聞かれた答が、
『あれは御大典の特赦と終戦の復権令があったので…そうでございます残りが二十と一年です』
引くだけ引いてもまだ21年。
その正体が明かされる瞬間の迫力たるや…。安部徹じゃなくてもビビって腰が砕けるでしょう。
92分でお腹一杯。好き放題やっているのにしっかりエンタメの佃煮になっている。
安心の石井印です。