
お話そのものは実に凡庸です。
嵌められて投獄された男が脱獄してお礼参り。それだけ。
しかし、そこは石井輝男。ストーリーよりも絵面(えづら)で勝負。
女は意味もなく熱湯をかぶって顔面が爛れ、男は雪中全裸で狂い死に。頭は風船のようにひしゃげて破裂。
素晴らしい。
「大脱獄」(1975年/石井輝男監督)
強盗殺人罪で死刑宣告を受けた梢一郎(高倉健)は仲間ら7人と網走刑務所を大脱獄…したものの、仲間割れやらなんやらであっという間に高倉と菅原文太の二人だけに。

文太を殴って気絶させた健さんは病気の踊り子・あき(木の実ナナ)を助けたついでに夫婦を装って木賃宿に泊まりながら、雪で閉ざされた路線の復旧を待つことに。
木の実ナナは持ち味を活かせているとは言えないのですが、同じ宿に身を潜めていた指名手配犯・佐川(小池朝雄)が良い感じ。
健さんを脱獄犯と見破るも「まあ、頑張んなさい」と見て見ぬふり。自身が逮捕された時は大声で「頑張れよー!」と健さんだけに分かるようにエールを送る律義者。
ナナと別れ、文太と再会し、復讐の舞台はSLの中。
驚いたのはこのSLの脱線転覆シーン。どう見ても本物。

何だこの大盤振る舞いは、と思ったら1960年の東映映画「大いなる旅路」の使い回しでした。
使い回しと言っても、一度は本当に脱線転覆させたわけですから、東映と国鉄の間に相当な信頼関係があったのは確か。
では何故「新幹線大爆破」の時は(以下略)。