ウィスコンシン州プレインフィールド。ライ麦畑が広がりたい放題広がっている、そしてそれ以外は何もない人口600人(当時)の田舎町を全国区に押し上げた男、エド・ゲイン。
彼の行動を素直に映像化したら何の呪いかフィルムが行方不明になり、日本公開が20年以上も遅れたという曰くつき映画。
永らくVHSのみが法外な価格で出回っていましたが、待望のDVD化。
「ディレンジド/人肉工房」
(1974年/ジェフ・ギレン&アラン・オームズビー監督)
エドさんのお人柄と美術工芸品の数々については、こちら↓をご覧ください。
「悪魔のいけにえ」と同年の製作ですが、太陽燦々なテキサスでレザーフェイスというキャッチーなキャラクターが大暴れする“いけにえ”と比べ、こっちは曇天な田舎の陰惨な猟奇事件をストレートに描いているので華というものがありません。

要所要所で事件を取材した新聞のコラムニストを名乗る男が解説を加え、本作が“再現映像”であることを強調しています(ひょっとしてモデルはジョナサン・デミか?)。

とは言え、愚直に事実を羅列しているのかというとそうでもありません。
エドくん(劇中ではエズラ・コブ)は母親の友人(デブの中年)、バーのウェイトレス、金物屋の店番と3人の女性を殺していますが、実際に殺したのは後者2名のみ。
バーのウェイトレスは巨乳の尻軽女になっていましたが、本当は店主で体格のいい中年女メアリー・ホーガンでした。

金物屋の店番は友人の息子のガールフレンドという設定になっていましたが、正しくは店主で57歳の女性バーニス・ウォーデン。
つまり、実際には殺していない母親の友人こそが被害者像に最も近く、実際に殺された二人はビッチとイノセントというセックスアイコンに修正されてしまったわけです。
これだと母親に似た人間を殺していたのではないかという仮説が成り立ちません。
バーニス・ウォーデンは納谷で逆さ吊りにされ、股間から胸までを切り裂かれ、内臓を抜き取られた上に首も切断されているのですが、本編中ではそこまでやらず。

お墓の死体の解体作業は結構丁寧に描写(特殊メイクはトム・サヴィーニ)していたのに最後の大技を端折るのはいただけないですね。
DVDには縮小チラシと柳下毅一郎氏によるインナースリーブ付き。