『こんな上にも下にも右にも左にもみっちり人が詰まっている壁の中に押し込められて気が狂わない方がどうかしてるわよ!』
『知ってる? 鏡に囲まれた部屋に猿を入れると、しばらくして発狂するんだって。どれが本当の自分か分からなくなって・・』
65年という時代を切り取って尚、今日に至る普遍性を失わない・・(面白いかつまらないかは横に置いておいて)・・恐るべし若松孝二。
「壁の中の秘事」(1965年/若松孝二監督)
スターリンに睥睨されながらケロイドの男と密会を続ける人妻。
マンモス団地の壁の中で孤独のうちに狂っていく主婦。
その窓のひとつひとつを覗き見ては妄想を膨らませていく受験生。
一歩外に出れば広い空と違う社会があるのに、壁で切り取られた狭い空間だけが全世界であるかのように固執する人々。
例によって「さあて、いっちょ海綿体でも充血させちゃろか」などと思って観ると股間に氷水ぶっかけられる若松ワールドです。
観ているうちに息苦しくなって思わず深呼吸。コンクリート壁の圧迫感・閉塞感・孤独感は最早暴力。確かにこんな所に押し込められたら「狂う」か「死ぬ」かの二択しか残されていないような気がします。
ケロイドと逢瀬を続ける人妻の夫の台詞が愚民を嘲笑しています。
『いやあ、平和だ。平和だねえ』
※参考:「エロスの果てのタナトス。胎児が密漁する時/犯された白衣」→2010年1月14日