誰にでも、たまぁにパラパラとめくっては眺めるように読み返す“お気に入り”があると思いますが、これはそんな一冊。
「映画の心 惹句術」(関根忠郎・山田宏一・山根貞夫共著/講談社/昭和61年初版発行)
東映宣伝部の惹句師(断じてコピーライターではない)関根忠郎氏の仕事「惹句」を手がかりに、宣伝文句から映画史を紐解こうと言うドカベンサイズの対談集です。
今日は能書き無しで、気に入った惹句をランダムに並べてみます。
地獄みやげに拝んでおけよ。雨のしずくか血か汗か。濡れております唐獅子牡丹。[昭和残侠伝]
親の、親のない子が生きるには、こうなるほかに何がある。
無理か、この世のはぐれ鳥。男、網走番外地。[網走番外地]
首は洗った! 命は売った! 死ぬ気で受けた三代目[明治侠客伝・三代目襲名]
生きて仁義を汚すより、死んで仁義の花咲かす。[関東やくざ者]
我につくも、敵にまわるも、心して決めい![柳生一族の陰謀]
殺(と)れい!殺(と)ったれい![仁義なき戦い/広島死闘篇]
日本海の飢えた狼は親兄弟も喰い殺す![北陸代理戦争]
フッと、やくざの足を洗ってみたが・・・
親子三人2DKの愛情は、俺の棲み家になるだろうか。[竜二]
どうですか、お客さん。
最後の「竜二」の惹句は関根氏の作ですが、実は主役を演じた金子正次(昭和58年、映画の公開直後に癌で死亡)が作った別惹句があったそうです。それは、
ごめんね、パパはもう帰れないんだ。
劇中、竜二が抱き上げる娘は金子の実子。心中察するに余りあります(想像しただけで涙目)。
今の小洒落ただけの実の無いコピーと違い、行間にドラマがありましたね。観る前から映画が始まっている感じ。
読み始めると夜更かししてしまう、罪な本です。