待機時間は5分。その間は何が起きても待っている。一匹狼の凄腕“逃がし屋”ドライバー。
確かに「ザ・ドライバー」(昨日のレビュー参照)の設定を下敷きにしているように見えます。見えますが…。
「ドライヴ」
(2011年/ニコラス・ウィンディング・レフン監督)
昼は自動車修理工、たまにバイトで映画のカー・スタント・ドライバー、そして夜は犯罪者の逃走をアシストする“逃がし屋”(ライアン・ゴズリング)。
名前も過去も不明。あらゆる個性を埋没させたドライバー。
実にハードボイルドな設定ですが、前半は隣の人妻(キャリー・マリガン←コブ付、旦那服役中)との淡いロマンス。
“こっち側”の作品だと思って観ると思わぬ肩透かしを喰らいます。
お話が転がりだすのは、この人妻の旦那が出所してくる辺りから。
刑務所の中で思わぬ借金を作ってしまった夫。ヤクザ相場で膨れ上がる利子。家族を盾に質屋強盗を強要するゴロツキ。
ドライバーは夫の逃がし屋を買って出ますが、そいつはとんでもない罠でした…。
人妻と子供を守るため、単身反撃に転じるドライバー。
一昔前ならチャールズ・ブロンソン、最近ならジェイソン・ステイサムやヴィン・ディーゼルといった野性系マッチョ男優に振りそうなキャラを、目元涼しげなライアン・ゴズリングが演っているのがミソ。
このキャスティングは「ザ・ドライバー」のライアン・オニールに通じていますね。
この瞬きしたら風が吹いてきそうな涼やかフェイスが己を解放した時、人体破壊祭りが始まります。
損壊描写は敵も味方も実に丁寧。
至近距離ショット・ガンによる頭部粉砕、首から上が潰れたトマトになるまで執拗に繰り返すストンピング…完全に「ヒストリー・オブ・バイオレンス」です。
“向こう側”の小洒落た恋愛物かと思って観ていたら、クローネンバーグ張りの人体破壊に出会えてちょっと得した気分…というのが本作鑑賞の正しいスタンスかもしれません。
ねっちり撮ったかと思えば、「ここは映さなくても何が起きるか分かるよな」的バッサリ感。
アメリカを舞台にした犯罪映画をデンマークの監督がカナダとイギリスの俳優を使って撮る事で、不思議なバランス感覚が醸成されています。
エレベーター内でドライバーが空きだらけの背中を見せているのに、キスが終わるまでじっと待っている殺し屋とか、ファンタジーと取られかねない安直なラストとか駄目な要素も多々ありますが、ステイサムやディーゼルの映画よりは100倍記憶に残ります。
しかしヘルボーイはメイク無しでも怖いなあ…。
★ご参考